目次 一月号
巻頭言  「百人一首」
すずか路
・小休止
柳論・ 自論
・リレー鑑賞
・ひとくぎり
例会
・今月のこの句
・各地の大会案内
特別室
・ほっとタイム
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受
・編集後記

たかこ
整理  柳歩

柳歩
須場秋寿
たかこ

たかこ

清水信

柳歩
 
 
巻頭言
「百人一首」
 新年おめでとうございます。
お正月といえばここ数年はパソコンの前で編集に追われていた記憶しかない。
ところが年末にこのパソコンが壊れた。修理を待つ間たまたま手に取った梅原猛のエッセイ集
「精神の発見」におもしろいページをたくさん見つけた。「巻頭言」に使えるかなとペンを持ったが、
キーボードをたたかないと文章になってゆかない。悲しい癖が身についてしまったようだ。

「『百人一首』の形と心」に、すべての優れた詩、歌は流麗な言葉の響きを持つとある。
それはこころにもひびくのだという。川柳にもちょっぴり通じるかなと思った。
例が若干載っていてそのうち二つを記載する。

・滝の音はたえてひさしくなりぬれど
    名こそ流れてなほ聞こえけれ

 この歌は古来、内容のない歌といわれてきたらしい。だが、読んでみると調子がよい。
五七五七七の句の頭の「たき」のta、「たえて」のta「なりぬれど」のnaローマ字で並べると
ta-ta-na-na-naとなる。taは二句で絶えるがnaは下まで続きあたかも滝の流れがずっと
続いているかのように、歌とことばの形の一致があるという。

・久かたの光のどけき春の日に
    しづ心なく花のちるらむ

 これはhi-hi-ha-si-haとなる。この歌はhの音を主調としているが、h音は明るい感じの音であり、
従ってこの歌全体に明るさが漂う。この明るさを消すのが「しづ心なく」の散ってゆく桜である。
声に出してみると、ここで明るさの中の暗、静の中の動になる。hの中にsの頭韻で表されていることは
偶然ではないとある。

 ここまで考えて句を詠むことはたぶんないと思うが・・・。

たかこ

すずか路より
湯を沸かし少しゆるめる冬の朝 橋倉久美子
足腰を気遣い暮れの 大掃除 山本喜禄
できちゃった婚もよろしい国のため 岩田眞知子
年賀状優しい犬を届けます 山本宏
名で呼ばれ合って一日満たされる 沢越建志
夢一つつなぐわたしの冬支度 柿木英一
熱燗に金箔が舞う松の内 山本鈴花
アシモから学ぶ猫背と膝の曲げ 上田徳三
非常口たまには開けて通りたい 鈴木章照
すずか路に集い二十を祝う初春 疋田真也
この辺でギブアップする介護室 木村彦二
誘われてその気になった小旅行 鶴田美恵子
球根の意志に任せて春を待つ 寺前みつる
信条は空き地の隅に咲くすみれ むらいかずあき
しがらみと思えば重い愛もある 井垣和子
寝たいだけ寝させてやろう里帰り 内山サカ枝
粧えば老いも少しは遠ざかる 山下美代子
老人教室エレベーターがつきました 坂倉広美
対向車線すいすい苛々が募る 北田のりこ
あきらめる癖はあなたを失って 多村遼
ステーキにされて大根格を上げ 鈴木裕子
観念のガンの手術もひと昔 小林いさを
来たからは石段登る天守閣 加藤吉一
亡き母に会いたい月が照っている 竹内由起子
宅配もお歳暮も無く年の暮れ 小嶋征次
また一つ歳を重ねて苦い酒 水野二
まだ今日も悟りに遠い道を行く 岡田敏彦
クリスマスの夕食十字切ってみる 長谷川健一
好まざる遺伝子もらい古稀を生き 山本城
南天も袋被され出番待つ 安田聡子
出る釘をハンマー持ってたたく役 羽賀一歩
省エネと手抜き料理に妻の弁 瓜生晴男
雪つもる心の中にまでつもる 秋野信子
外見は立派あなたもマンションも 吉崎柳歩
あなたの胸に根雪のように積もりたい 青砥たかこ
 

整理・柳歩

柳論・自論
 
「没句」の扱いについて
 例えば「川柳すずか」では「例会風景・没句から」の中で寸評と添削例を載せている。
「川柳亀山」では「ボツ句再見」のコーナーを設け、主幹の広美さんがこれにあたってみえる。
没句の扱いには様々な意見があるようだ。

    あきらめた人は行かない初詣(鈴鹿・柳歩没句)

何でもないことの裏側に目を付けたと自信があったが、たつお選にも漏れた。
たかこさんのご指摘のように初詣なんて気分で行くだけなんだ。
潔く敗者復活はあきらめるべきだろう。

    蝸牛には盗塁は無理だろう(亀山・柳歩没句)

 この選者に通じなかったら次の機会に、と思って出句した句。評者も悪い句とは言っていない。
主幹級である評者に引導を渡されたら、勉強にもなるしあきらめも付く。
しかし、評者だったら抜くかも知れない句を中途半端に扱い、生殺しにしてはならないと思う。
触らずにおくか、選者に気兼ねしない扱いをすべきだろう。
                                                               柳歩

例会より
宿題「血圧」 吉崎柳歩選
  血圧を有馬記念がまた上げる 中田たつお
  生きている限り血圧計揺れる 青砥たかこ
 止 血圧のことにも触れる二度の縁 岩田明子
 軸 血圧に悪いが面白いドラマ 吉崎柳歩
宿題「あきらめる」 井垣和子選
  定年のない主婦業を続けてる 竹内由起子
  あきらめる事にも馴れた同居の灯 内山サカ枝
 止 あきらめが母にはできぬ百度石 水谷一舟
 軸 あきらめの境地で耐えた半世紀 井垣和子
宿題「あきらめる」 中田たつお選
  大雪にさすがの妻も家にいる 上田徳三
  定年のない主婦業を続けてる 竹内由起子
 止 歳の差を男のほうは考える 吉崎柳歩
 軸 ダイエットもうあきらめたカニツアー 中田たつお
席題「湯気」 清記互選 高点句
12 てっちりをつつく眼鏡が邪魔になる 山本宏
 9 おしゃべりを止める石焼芋の湯気 中田たつお
 7 湯気立てて言うから会議白け出す 加藤吉一
 6 朝市の売り手買い手も湯気をたて 坂倉広美
特別室
『ミリ流』
 『中日新聞』日曜版に連載されている「明日のことはわかりま川柳」というコラムを愛読していると、
人に言っては笑われている。作者は益田ミリという。
例えば、11月27日号では「本日の一句」として、次の句がある。

    スキップは大人になってもしていいさ

 しかし、本文の方はエステに行った話である。

 益田ミリは一九六九年大阪生まれ。イラストレーターで川柳やエッセイにも手を染める。
(つぶやき川柳)と自嘲したりしながら、現実逃避族のカリスマ的存在になっている。
彼女の本の中では『<妄想>は女の幸せ』(PHP文庫)が好きだ。内容はエッセイと四コマ漫画と、
モーソー族集会のレポートから成っているが、ところどころに川柳も加えていて、面白い本の作りだ。

 『ダカーポ』という雑誌では「つぶやき川柳教室」という連載があり、ときどき有名人(とは言え、
川柳では素人)を招いての実技練習があったりした。
 写実も結構だけれども、妄想と彼女が呼ぶ幻想や空間が創作の源泉になることも、
あり得ていいわけだから、その発想には反対ではない。
 エステサロンについての知識は、まるで無いのだが、その報告的エッセイには、
百分で一万八千九百円とある。裸になって紙パンツ一枚だけで、個室に入る。
勿論エステティシャンは女性である。それが全身に植物オイルを塗った後、
マッサージをしてくれるのだという。
 急に美人になれるわけでもないのに、エステからの帰り道に、心がはずんで、思わずスキップしてしまうと
いう話の終わりに、大した変化もないし、行ってる時間がムダのようにも思うけれど、こんな体験の
有難さも「女の人生」だと書いてある。
 本来「妄想」には、自分だけの楽しみで人様に披露すべきものではないと思いつつも、こういうささやかな
体験に伍する、作家体験であって、作品化することは可能だというススメである。

 川柳作家のベテランからは反論があるだろうけれども、殺人の体験がなければ殺人小説を書くことが
できないという誤解から言えば、事実や実体験の劣性が理解できよう。
 色鉛筆で長く遊べる人こそが、創作に向いているのだ、というこの人の説はかなり正しいように思う。

清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『スリッパ』
13 寝たきりの耳スリッパを聞きわける 水谷一舟
12 スリッパを履くほど長くない廊下 吉崎柳歩
11 スリッパのやがて定まるみぎひだり 吉崎柳歩
10 娘の下宿ペアのスリッパある不安 山本宏