目次 7月号
巻頭言  「宴のあと」
すずか路
・小休止
リレー鑑賞
・ひとくぎり
大会
特別室
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ほっとタイム
・大会お便り
・暑中広告     
・お便り拝受
・編集後記

たかこ
整理  柳歩

浅野滋子
たかこ

清水信
柳歩



 









 

巻頭言
宴のあと

 第四回市民川柳大会も無事に済ませることができた。すぐに頂く感想はいいことが多い。それらは「会場がよかった」「百三十人くらいがちょうどいい」「スタッフが慣れてきて持ち場をしっかり守っていた」「柳歩さんとのコンビが抜群」などだった。

 アルバイト先の接遇・マナー向上テキストに「ジョングッドマンの法則」というのがあって、『不満を持っていても苦情を言わない客は、知らないところで悪い評判を伝えるそうだ。悪い評判は良い評判の倍以上に伝わるといわれている』らしい。
これはなるほどと頷ける。私の場合は立場上、それほど魅力を感じない大会も無理をして行くこと(ほとんどない)があるが、これまではそうじゃなかった。交通費もかかるし、一日潰れるのである。まして近頃のように大会が目白押しでは、選択して当然である。

 今回は、いろんな方にスピーチをお願いした。二十周年ということで亡き竜子さん(奥様に手紙を託された)前会長の美津子さん、来賓として芸文会長の加藤栄氏、元朝日新聞記者竹内氏、そして、中田たつお氏。それぞれ心に残るお話を戴いた。

 前出のテキストには「メラビアンの法則」というのもあって、身だしなみを浴した挨拶は接遇に欠かせないとある。挨拶は好きである。それしか能が無いかもしれない。
 それと、懇親会へたくさんの方に残っていただくのは、本当にありがたい。「楽しかったよ」「また来年ね」今年も耳に心地よい言葉だけを拾って終わらせて頂いた。

たかこ

すずか路より
太鼓判押されたわりに伸び悩む 鍋島香雪
植える場所なくてものぞく植木市 山本喜禄
お茶だけの友では少し物足りぬ 鶴田美恵子
福耳になりますようにイヤリング 岩田眞知子
待っていた古巣の母はもういない 山本鈴花
用意した笑顔がぎこちない見舞い 山本 宏
用心深い男で傘は忘れない 沢越建志
曲がったら元にはならぬ傘の骨 上田徳三
味噌汁は有無を言わせぬ妻の味 鈴木章照
山ひとつ越えて一段落の旅 疋田真也
死に場所がどこかは知らず今は生き 寺前みつる
薬をやめたら元気になってきた 東川和子
童心がレンゲ畑で顔を出す むらいかずあき
招かざる客と悟ったぬるいお茶 井垣和子
午前二時目覚めの枕裏返す 内山サカ枝
備忘録のどこにも妻が棲んでいる 坂倉広美
通ぶって最初に拍手してしまう 橋倉久美子
羊水の記憶を辿る千枚田 多村 遼
着痩せする服が欲しいと無理を言う 北田のりこ
仮病して甘えてみたい時もある 鈴木裕子
老いてゆく歳にも恋の未練持ち 水野 二
冥途ゆき急ぎもせぬが拒まない 小林いさを
お代わりは久し振りです旬の味 小嶋征次
建て替えた実家はどこか淋しいな 竹内由起子
秒針が心に響く午前二時 長谷川健一
夢でもいい一度好きだと言ってくれ 上田良夫
雨の日のあじさい見つめ母恋し 安田聡子
バスで席譲ってくれた茶髪の娘 瓜生晴男
エレベーターの製造元を確かめる 山本 城
貧乏に早寝早起き強いられる 岡田敏彦
男役終えて撫子茶を注ぐ 羽賀一歩
銃剣と歩いた道を思い出す 木村彦二
こんなところにイボがあるとは知らなんだ 竹島  弘
血税を湯水と使う天下り 齋藤高圓
幕の内弁当ほどの夢の数 青砥英規
打ち上げという楽しみもある祭り 吉崎柳歩
ほどほどの達成感へ旨い酒 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

149号から                                                浅野滋子

底力そだててくれた四面楚歌    上田 徳三
  孤立して周囲からは、励ましも援助もない。その環境を耐えぬいた人なればこその底力だろう。

ライバルに花を持たせているゆとり 鍋島 香雪
  競争相手に一歩も二歩も譲る。さらりと言う寛容さの裏側に持っている自信のあかしと思う。

紅引いた唇きついことを言う       井垣 和子
  歯に衣着せぬ人がいる。相手の心をぐさりと刺して、平然と言いたい放題。しかも美しく装った人の設定で、意外性が面白い。

店員のあの手この手に負けました    内山サカ枝
 
商いの大変さは、さぞやと思うが、余りにも巧みな対応に、ついその気になってしまい、財布を軽くさせられる。あの手この手の様子が目に浮かぶ。

美しいことばがわたしには重い      橋倉久美子
 
取り澄ました人には、とかく美辞麗句で責められる。ざっくばらんで、お話が出来るのが一番いい。

わたくしの願い届いた神仏         鈴木 裕子
  奇を衒うことなく、素直な思いが伝わってくる。神も仏も無いと嘆くことの多い中、報われた喜びと感謝の気持が捉えられていて、爽やかである。

酔っ払って封印袋開けました        加藤 吉一
 
禁句や、中傷、作者が誓った封印は何だったのだろう。自制が効かなくなるお酒は怖い。

二度仕込みするとうわさも旨くなる 青砥たかこ
 
上滑りの結末は、歪んだところだけが噂となって厳しい状態を作りだす。じっくりと取り組む姿勢に、二度仕込みということば選びが光った。

引き算の季節四月を送り出す        岩田眞知子
  四月の出費は、ただならぬものがある。卒業や、入学、入社、どの家庭でも二つや三つ重なって溜息が出る。祝いごとの嬉しい悲鳴が聞こえる。淡々としたフレーズで、何も彼もが言い尽くせた。

                                                                (名古屋市在住・さざなみ川柳主幹)

 
第四回鈴鹿市民川柳大会より
事前投句「塗る」 青砥たかこ選
  リベンジへ自己イメージを塗り替える 吉崎柳歩
  タテヨコになんべんも塗る 生きてます 矢須岡 信
 秀 未来図は玉虫色に塗っておく 鍋島香雪
 軸 塗るたびに違う笑顔が出来上がる 青砥たかこ
宿題「はらはら」 木野由紀子選
  はらはらどきどき恋が生まれているピアノ 植野美津江
  おじいさんだってはらはらする日暮れ 橋本征一路
 秀 はらはらと女も花も散るものか 森中恵美子
 軸 エレベーターにひとりはらはらして降りる 木野由紀子
宿題「きのう」 鍋島香雪選
  ホスピスにきのう点っていた命 菱川麻子
  空っぽの部屋がきのうを恋しがる 菱木  誠
 秀 きのうより進む迷いのない一歩 山縣正彦
 軸 晴天をずっと祈っていたきのう 鍋島香雪
宿題「羨ましいこと」 (読み込み不可) 坂倉広美選
  ライバルは僕より少し背が高い 沢越建志
  カレンダーに羽がいっぱい書いてある 坂崎よし子
 秀 両手に花いささか草臥れてはいるが 橋本征一路
 軸 打ち消した貌が語っている誇り 坂倉広美
宿題「メモリー」 赤松ますみ選
  花のある景で止まっている時計 岩田眞知子
  アルバムをぱたん過去から覚める音 橋本征一路
 秀 ひもといてこころの花に逢いにゆく 井上恵津子
 軸 葉ざしなどして想い出を深くする 赤松ますみ
宿題「挟む」 橋本征一路選
  聖書からはらりと落ちてきた諭吉 中 博司
  見つけやすい場所に挟んでおきました 阪本高士
 秀 大切にしようタバコを挟む指 菱川麻子
 軸 それとなく挟む夕べの忘れもの 橋本征一路
宿題「毒」 鈴木如仙選
  毒食べてやっと大人にしてもらう 坂崎よし子
  ふぐの肝ごときに男試される 中田たつお
 秀 父の日に届くリボンをつけた毒 田中豊泉
 軸 毒消しは冷やの五合と決め野武士 鈴木如仙
宿題「自由吟」 森中恵美子選
  ニュースから絆の切れる音ばかり 表  洋子
  葬式が面倒だから生きている 永井河太郎
 秀 しばらくすると土へ還ってゆく祭り 矢須岡   信
 軸 よくゆれる大地だあじさいと独り 森中恵美子
 
特別室
『青砥さんの小説』

清水信 青 青砥たかこ句集『マチエール』が出てうれしい。
 吉崎柳歩の序に、疋田真也の鑑賞と清水信の解説という、三者三様のオマージュに包まれているのも、人柄というものであろう。その三人が揃って取り上げている作品が意外に少ないのは、彼女の幅広い視野と好奇心の豊かさを示していると思う。

 他にも、鈴鹿土曜会のレギュラーメンバーで、専門の川柳分野を超えて、詩やエッセイや小説にも、強い関心を持っていることを示している。とりわけ、仲間三人と出している同人誌『さん』で、次々と発表している小説は、会のメンバー全員を感心させるほど、新鮮な味わいを出している。
 例えば、近刊の第10号では、出岡絢巳の連載長編「水の風景」や南部涌子の短歌作品と並んで、難波綾子の「熱き日々」と青砥たかこの「深爪」が出色の出来である。
 遅れついでに、ぐっと遅れて中日時評でも、次号発刊までに書く予定であるが、五十代初めの美佐子という女性の小さな事件が描かれる。二度目の夫と離婚した後、デパートに勤めている。日ごろ薄い化粧で済ませているのに、近頃は化粧が濃くなった。娘の服を借りて出て行くことも多い。娘の結婚が間近かであるのに、美佐子の心も浮いている。今日は弁当を作って男と待ち合わせる。
 デートから帰ると、マリッジブルーの娘がいらついている。娘との間には、辛い過去があり、その父を交えて切ない時間があった。そのにがい思い出にさいなまされて、デートの楽しみは消えていく。結婚式を直前にしてある日、娘と二人で家を掃除している時、長身初老の男が訪ねてきた。
美佐子のデートしている男であった。

 そんな小説である。かくして、三番目の夫が「新しい父」として娘に紹介されるのだ。
深爪とは、爪を切る時、肉のきわまで深く切ることを言う。夜、爪を切ると、親の死に目に会わないと言われ、深爪をすると、男運が悪くなると言われ、共に避けるべき忌み事と言われる。少女の頃の娘は、ストレスで自傷行為もあり、苦しんだが、母の方にもストレスで深爪の癖が止まらなかった。
 そういう母娘の精神的葛藤がおちついた後半生に向かって描かれる。才人青砥たかこの、もう一つの面である。

                                                (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 脱線 』
13 跡取りがレールの上を走らない 岩田眞知子
10点 脱線をしながら妻の長電話 山本 宏
   脱線をして人生に幅が出る 多村 遼 
 8点     懐は温い脱線してみるか 疋田真也
  ユーモアで少し脱線する余裕 加藤吉一
  脱線をした子が戻るレール敷く 坂倉広美