目次3月号
巻頭言  「国民文化祭の
           思い出 」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり

・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・ほっとタイム
・インターネット句会
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・編集後記

 



たかこ
整理  柳歩

柳歩
橋本充子
たかこ

柳歩
清水信
橋倉久美子


柳歩









 

巻頭言

国民文化祭の思い出

十三年前、第九回国民文化祭川柳大会が三重で開催されたとき、私の川柳暦はちょうど一年。自分の会の人たちの名前も覚えきれてないときに、鈴鹿の数名で当日受付をするように言われ私も加わった。
 予行演習もないまま、ぶっつけ本番、主催者の一人に「くれぐれもそそうのないように」と念を押されたが、誰がどのように偉い人で、選者にはリボンをなどと言われても面食らうばかりで。ま、女は愛嬌で笑顔で接すればいいか、など軽く考えたものだった。

 開場時間よりはるかに早く、四百名以上もの参加者が続々といらっしゃる中、受け付票を渡すのがやっとで、いろいろ不手際があったと思う。ぼんやりと お弁当の到着が遅かったし、選者室が遠かったことなども思い出されてくる。アトラクションでは、山岸志ん児さんの「寅さん」に扮した演技が光って広い会場がおおいに沸いた。披講に入り、会場が水を打ったように静まり返ったのも驚きだった。かなり遠方からの出席者が特選になったが、途中退席をされて表彰式が少ししらけたようだった。当時の三川連の役員の苦労話を聞いてみたい気がする。

さてその三川連では、今年役員改選で、理事長や事務局長が代わった。理事長に、宮村典子さん、事務局長に我が柳社の柳歩さんに。
「すずか路」柳歩さんの句

これ以上持てぬ荷物を持たされ

 は実感句そのものであると思う。

                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
だだくさな文字で続いている日記 鈴木裕子
ワクワクとしなくなってからが長い 岩田眞知子
ときめきもないが無難に日は暮れる 山本鈴花
間違いもあるさと編集は言えぬ 上田徳三
冗談じゃないよと今日も独り言 竹内そのみ
勢いはまだございます勝負する 鍋島香雪
淋しくて花の色香に誘われる 沢越建志
プレッシャーかかる幸せ噛みしめる 青砥英規
一群がさえずり抜ける歩く主婦 鈴木章照
都ではビワの頭が高く見え 木村彦二
認知症検査結果を子が案じ 鶴田美恵子
九十九折れ 峠の春を疑わぬ       堤 伴久
いい話だけでは腹はすいたまま 寺前みつる
戯れに好きと言うから雨が降る 水谷一舟
ぼんやりと見える私の降りる駅 山本喜禄
ローヒール猪突猛進には無縁 井垣和子
古里の道まな裏を離れない 内山サカ枝
気力だけでは登り切れない八十路坂 吉住あきお
楽譜どおり弾いても拍手起こらない 坂倉広美
何と有意義な休日ふとん干す 橋倉久美子
会いたくない人に出合ったお葬式 北田のりこ
降る雪に閉じこめられている小部屋 多村 遼
あやしたりおだてたりして母見舞う 高橋まゆみ
不参加でも声だけ掛けて欲しいもの 小嶋征次
電話代何時も損している幹事 加藤吉一
老骨も日々頼られて暮らしあり 小林いさを
豆を播き恵方に向いて願い事 竹内由起子
白髪に童顔残るクラス会 長谷川健一
レジの娘におとこ所帯を悟られる 水野 二
味見するそのひと口で肥満体      安田聡子
春寒に負けて覚えた老いの酒 瓜生晴男
産む機械軽い言葉で揺らぐ椅子    上田良夫
湯たんぽ一つ冬の夜長を乗り切った 羽賀一歩
手を握ることしか姉にしてやれぬ 吉崎柳歩
それぞれの春が出番を待っている 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

  157号から                                        播本 充子

・注目を浴びればきっと頑張れる    竹内由起子
 川柳界にも「有名になりたい病」の紳士淑女が沢山おられます。作品で勝負の世界。小さくてもいいから何回か花火を上げることです。注目してもらえればしめたものです。後は気力と作句力が加速して、やがて一流に。

 ・霜柱踏んだ遊びも孫知らず      瓜生 晴男
 
地球温暖化とマンション暮らし。競い合って霜柱を踏む、あの快感を知らない孫たち。軟弱な身心で百年後、二百年後の人類は一体どうなるのでしょうか。我々は千の風になってエールを送るしかないのです。

・バーゲンでパンクしそうな冷蔵庫   安田 聡子
 
大手スーパーの「冷凍食品五割引」のチラシ。早速三男のお嫁ちゃん(フレンドリーなのです)の車で長男、二男宅の分もと一メートルを超えるレシート。帰路、宅配センターへ世に言うところの親心です。

・つぶされる野菜畑に胸痛む      安田 聡子
豊作貧乏に泣く。こんな映像を見るたびに思うのですが、何故食べてくれる人々に無料で配らないのだろうと。諸々の施設や学校に活用したら農家の方々の心も汗も生かされるでしょうに。

・在庫品一掃します福袋        小嶋 征次
 
五人の孫達の為に福袋に燃えてます。寒風吹きすさぶ中。開店を待つ長い列に。最近の傾向としてブランド福袋と在庫品一掃福袋に二分化。後者は売れ残って店員さんが声を嗄らしている光景が見られます。

鮮やかに負けた勝負に悔いはない   鈴木 章照
 章照様の知立、昭和四十二年から十年間、畑の中に出来た公団住宅での記憶が甦りました。負けようと思って戦う者はいない。人生真っ向勝負を信条に。甲子園球児のコールド敗けの涙にも拍手を送っています。

人間のにおいのする句産み落とす   青砥たかこ
 三年前「川柳塔のぞみ」を発会。「いのちある句を創ろう」を掲げておりますが実作はなかなか…。悪戦苦闘が続きます。

                                (川柳塔のぞみ代表 八王子市在住)

2月24日(土)例会より
宿題「余る 」 青砥たかこ選
  結局はキャベツ一個を腐らせる 東川和子
  ウエストを合わすとすそが余りすぎ 橋倉久美子
 止 余るのを尻尾をふって待ってます 上田徳三
 軸 余るほどあった若さと肌の張り 青砥たかこ
宿題「 雪 」 前田賀信選
  雪のない少ししまりのない二月 青砥たかこ
  粉雪に悲しいことも混じってる 安田聡子
 止 少子化にせめて子連れの雪ダルマ 井垣和子
雪降りのコンペホールインかも知れぬ 前田賀信
宿題「 雪 」 沢越建志選
  雪解けも案外早い凡夫婦 吉崎柳歩
  ロマンスが生まれそうです雪の夜 青砥たかこ
 止 雪しんしん生きる重さをかみしめる 水谷一舟
 軸 暖冬に孫と果せぬ雪ダルマ 沢越建志
席題「おかげさま」 清記互選 高点句
 8 おかげさま見えないとこで妻拝む 坂倉広美
  口だけはおかげで達者医者いらず 長谷川健一
 6  コーヒーがとてもおいしいおかげさま 東川和子
 5  おかげさま口癖になる病んで以後 井垣和子
  ありがとう無事定年の花の束 北田のりこ
  ゆったりと浸かる感謝の仕舞い風呂 小嶋征次
  湯上がりに一本が付くおかげさま 沢越建志
 
特別室

水府と聖子(2)

 岸本水府の両親は徳島県の生まれ。つまり阿波男と阿波女である。阿波藩士族の出である。水府出生当時、徳島県租税課の御用掛をしていた。男と女のどちらが頑固かは、にわかには決め難いけれども、

・転任をしても母親阿波なまり

 という句があるように、阿波弁が家庭ことばであった。瀬戸内ジャクチョウ尼や河原トクコ女史も、阿波女であるが、そのなまりは見られない。
 税務官吏は警察官などと同じで、永く一地区に勤務すると、情実が出来るというので、転任の多い職業だが、岸本家の転任命令の数は異常である。
 徳島から栃木の宇都宮へ、それから千葉県庁へ、それから三重県へと移り、三重県では白子(鈴鹿市)から鳥羽へ、更に相可へ、そして久居、尾鷲、木本と三重県だけでも六ヶ所も変り、あげくの果ては大阪へ転任となった。大阪税務管理局詰めとなったのだが、木本(今の熊野市)からは、当時は船で行った。

・船ぎらい先祖の墓は阿波にある

 それで終りかと思ったら、父親はまた三重県伊勢市(宇治山田葉煙草専売所勤務)へ転任させられ、また愛媛の松山へと飛ばされた。
 とうとうゴウを煮やした水府の父親は、
22年の官吏生活に別れを告げて、大阪で商売を始める。松島遊郭に近い九条新道という場所で、煙草屋を開いたのである。それでも甘やかされて育てられた水府は自分のことを、永い間「坊やん」と呼んでいた。店は煙草の他にも薬や日常雑貨も売っていた。また切手や文房具も売るようになった。母タケは家計を考え、その上にも二階を下宿にした。最初の下宿人は五代目笑福亭松鶴だったという。
 水府は筆まめで生涯日記を書いたが、
16歳のころからの日記が残っているし、句稿もちゃんと整理している。
 川上三太郎も同じで、芝居小屋に通い寄席に通ったりして、落語や講談に通じる日常は、彼らの句境の基盤として忘れてはならぬ。小説家の長谷川幸延も友達であった。当然ながら、彼らはその内、創作に挑むことになる。水府は俳句の投稿を始める。

 成器商業卒業後、彼は大阪郵便局へ勤める。為替貯金管理課事務員であった。大阪は水の街である。彼は千代崎橋から局のある天神橋まで、日々巡航船にのって、川を上り下りしていた。句会では、西田当百をライバル視していた。

・つまづいて巡査は至極まじめなり
・お帰りと言うてランプのシンを出し
・旅行先わが家のに似た犬に会ひ

 いずれも当時(
19歳)の稚拙な水府の作であるが「望みなきにしもあらず」である。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 除く 』
 13 美辞麗句除くと何もない祝辞 福井悦子
 11 口数を除けば僕に過ぎた妻 瓜生晴男
10点 母と娘の会話に父の場所がない 北田のりこ 
 9点   カタカナを除くと進まない会話 青砥たかこ
 8点   イエスマン以外はすべて除かれる 吉崎柳歩