目次11月号
巻頭言 「 番傘百周年記念大会」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり
・例会
・例会風景
・没句転生
・インターネット句会
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・ポストイン
・お便り拝受
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

伴久・柳歩
日野 愿
たかこ


柳歩

清水信
橋倉久美子
柳歩



 
バックナンバー
20年 10月(180号)
20年 9月(179号)
20年 8月(176号)
20年 7月(175号)
20年 6月(174号)
20年 5月(173号)
20年 4月(172号)
20年 3月(171号)

20年 2月(170号)
20年 1月(169号)
以前のバックナンバー









 

巻頭言


 番傘百周年記念大会

 番傘に所属しているわけでもない私だが、去る十月十二日、なら100年会館にて開催された「百周年記念大会」は、参加することにおおいに意義を感じる大会だと思っていた。

 参加者数は、このたび文化勲章をめでたく受章された作家の田辺聖子著書「道頓堀の雨に別れて以来なり」の出版記念大会で、396名、十年前の、「番傘九十周年大会」は675名だったそうだ。高齢化が案じられて久しい川柳界ながら、今回の百年記念大会は、千人を上回ったのである。これらは、当日記念の品としてもらってきた「番傘川柳百年史」に詳しく載っている。全四百ページの「百年史」はとても読みやすい編集がされている。

 当日、私が会場に着いたとき、既に数百名の人の波が揺れていた。
 その波に身を任せながら、十年ほど前のことを思い出した。川柳を始めて間もなかったが、私は番傘の主幹の名前も知らなかった。このことは以前「ひとくぎりの典呼さん編」で記したことがあるが、番傘に興味がなかったとしか言いようが無い。
「ほんとに川柳やってるの?」と笑われたのが、昨日のことのようだ。

そしてその後、思うところあって、時実新子さんの「川柳大学」を辞め句風も微妙に変わった(?)頃、ある人から電話が来た。内容は、番傘のような古い句を作ってどうしたのか、というようなものだった。
「私にはそれが却って新鮮なんです」と、答えて電話を切った覚えがある。

 今回の大会は、番傘以外の人も大勢参加されていたように思う。川柳は人間を詠う文芸だから、北から南からたくさんの人が集まった。川柳史に残る一瞬を同じ場所で同じ空気を吸えたことが、単純にうれしかった。いろんなハプニングはあったが、それも、いい思い出にしたい。

                                                                                                                                                     たかこ

すずか路より
待ち時間平気ここには週刊誌 鈴木裕子
おじさんが『女性自身』を読んでいる 橋倉久美子
自由人らしい作務衣が干してある 寺前みつる
スーパーのバナナあれから頭が高い 山本 宏
歳の差を埋める講座の好奇心 沢越建志
ノーベル賞益川君は同期生 鍋島香雪
塩漬けの株がドンドン辛くなる 山本鈴花
負の母もわたしの母にちがいない くのめぐみ
セピア色の写真に滲む淡い恋 高柳閑雲
ナビの声男もあって良さそうだ 鈴木章照
ライバルは時々勝てる人にする 石川きよ子
来月はがんばるいつもこればかり 青砥英規
お喋りの種は尽きない二人旅 鶴田美恵子
トリミングしてそれらしく見せている 堤 伴久
いちいちを気にしていたら身がもたぬ 秋野信子
健康法散歩も妻となら出来る 水谷一舟
行楽の秋は避けたい投票日 山本喜禄
息切らし取った電話はコマーシャル 西垣こゆき
おれおれの声は五歳の孫だった 松岡ふみお
まだ見える古い眼鏡にしがみつく 坂倉広美
突き刺さる言葉をおとぼけでかわす 北田のりこ
献立に困った時のハムフライ 高橋まゆみ
出てこない名前知ってるふりをする 落合文彦
そもそもを聞けば他愛のない喧嘩 浅井美津子
外来の草は似合わぬお月様 加藤吉一
おしゃべりを楽しみながらボランティア 竹内由起子
面白さ越えて悲しい政治劇 長谷川健一
知り合いとよく出合います特売日 安田聡子
旅支度誤算だらけの秋の雨 瓜生晴男
減ることも話題高齢者の憩い 水野 二
コスモスも僕のハートもよく揺れる 吉崎柳歩
リラックスすると右脳がしゃべり出す 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
   177号から                                    日野  愿

・夢ばかり大きく前へ進めない     沢越 建志
 完全主義の男がここにいる。夢(計画)が完璧過ぎてその実現につい「考える人」になってしまうのだ。そうはいっても夢を小さくするわけにもいかず、男は辛い。

かぶと煮の目玉率先して食べる    橋倉久美子
 一番美味しく、しかも多くても二つしかない鯛?の目を、率先してなどまるで善いことをするかのように食べる女性。昔なら男が先に箸をつけるところを、ついでに頬の身も一緒に掬いとる、以ての外である。かぶとが出たら必ずこの句を思い出すだろう。これぞユーモア句のお手本。

持久戦ならば絶対勝つ自信      鍋島 香雪
 絶対といっておられる。マラソンの男女の記録がどんどん接近し続けている。そのうち男は瞬発力だけしか女性に勝てなくなるだろう。怖しいことである。

縮んでいく自分から目をそらさない  くのめぐみ
 ここに冷徹な目で老いを見つめる人がおられる。ハンディさえもささやかな風にしておられ、正に川柳的生き方であろう。

・洗濯を溜めて五輪へ燃える妻     山本 鈴花
 
そして金メダルともなれば鮨の出前、洗濯に続いて料理もパス。オリンピックの間、全国の鮨屋は忙しかったことでしょう。

・一年で二つ年取る親の老い      高橋まゆみ
 
子としてこんな哀しいことはない。直截な表現は川柳ならではで心を打つ。一年で二つが適切すぎる言葉である。「喜寿米寿母は小さくなるばかり」初太郎 を思い出した。

・やっとこさ秋の気配を運ぶ風     安田 聡子
 
同想は多いが、それだけ誰もが同じ思いをした秋の風。この作者の五句とも五七五のリズムが心地よい。

・買い物のついでに寄った墓参り    吉崎 柳歩
 
私の目には花束も線香も持った姿が浮かぶ。シャイな男は買い物のついでと照れている。

・充電をしてますノックしないでね   青砥たかこ
 
ノックせずに入った男は生涯恨まれた。  

                                  (堺番傘川柳会  阪南市在住)

10月25日(土)例会より
宿題「 説明 」 青砥たかこ 選と評
  美女の条件説明するとややこしい 坂倉広美
  説明のハンドマイクがよくとちる 吉崎柳歩
 止 説明不足きれいな水が出てこない 水谷一舟
 軸 壊れたらやっと説明書を開く 青砥たかこ
宿題「 悩む 」 竹内由起子選
  人に聞く勇気がなくて悩んでる 加藤吉一
  悩みなどない顔で会う散歩道 西垣こゆき
 止 父に似た顔を悩んで適齢期 水谷一舟
悩んでる内はゆとりのある証拠 竹内由起子
宿題「 悩む 」 吉崎柳歩選
  悩みなどない顔で会う散歩道 西垣こゆき
  一つしかないのでどちらにもやれず 北田のりこ
 止 朝起きて尻尾がはえてたら悩む 青砥たかこ
裏金も引き継ぎされた課長補佐 吉崎柳歩
席題互選「 巻く 」 高点句
 7点 巻き込まれないよう距離を置いている 北田のりこ
 4点 巻き戻ししてもあなたがみつからぬ 坂倉広美
  巻き添えが恐く尻尾をふっておく 水谷一舟
  犯人をここで見つけた巻きもどし 水谷一舟
 3点 母のウツ巻き寿司の芯ずれている 北田のりこ
特別室

ななかまど(4)                                       清水 信

 男の肉体では、どこが美しいか。
 それは手、むしろ指だけである。
 男の手の指は、どんな時に美しいか。

 時実新子は(1)白い紙巻煙草をはさんでいる時の男の指は美しい。(2)酒を飲むために、盃やグラスをにぎっている時の男の指は切ない。更に(3)モノを書いている時の男の手はきりりと厳しいから「好き」と言う。

 これは結構、男ごころをくすぐる。一億総嫌煙時代の常識に抗して、タバコを礼賛するなんて、恰好良くはないか。煙草を吸わないカウボーイや、ギャングが、いるものか。煙草を吸わないジャン・ギャバンや、煙草を吸わないゲイリー・クーパーや、煙草を吸わないヘンリー・フォンダがいるものか。

 今や、ギャンブル(パチンコや競馬)も、酒も、ゴルフや野球やサッカーも、女性専門となってしまって、神が男(ダンディ)のために呉れた最後のプレゼントは煙草だけになってしまったのである。
 流行の立ち合い「お産」も、男たちが鈍感になったせいで、バカらしいからやめろと言う。

・君は日の子われは月の子顔あげよ
・グレイグレイ鼻ふる象の起こす風
・夫婦歴栗と団栗似て非なる
・れんげ菜の花この世の旅もあと少し
・さよならのように夫の指握る
・それがどうしたと五度言う六度言う
・ふらり出て水へ水へと川育ち

 これら新子佳句を見れば、彼女の味方の様相が分かるだろう。
『悪女の人生相談』という著書のあるフランス文学者・鹿島茂によれば、フランス語では「悪女」の反対は、唯の「バカ女」という言葉という。そうなれば、文学の分かるひとは、皆「悪女」ということになり、文学志望者は、もっと悪女っぽいことになる。
 もちろん、男性諸君も流行のチョイワル・親父の方が良いに決っている。

 大会では、自分も「ぱくり作法」を説いて、ワルの勧めをしてみた。冗談だと思って貰って良いわけだ。
「まだ咲いているバカ夾竹桃」という元句があるとする。元気でアホの後期高齢者をひやかしている句ともとれるので下5だけ変えてみる。

・まだ咲いているバカ百日紅
・まだ咲いているバカ福寿草
・まだ咲いているバカ胡蝶蘭
・まだ咲いているバカ・アマリリス
・まだ咲いているバカ彼岸花

 盗作は厳に戒めるべき問題で、厳罰を以て臨むべきだが、元句よりも良い「まね句」もあり得るわけで、そういう遊び心まで封殺すべきではないと、自分は思っている。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 いよいよ 』
 1 4 いよいよの時では遅い遺言書 吉崎柳歩
 11 臨月へいよいよ父となる自覚 鈴木裕子
   いよいよにならねば知恵が湧いてこぬ 橋倉久美子
    泣き虫が一年生になる明日 鈴木章照
    訃報欄同年代が多くなる 山本 宏