目次5月号
巻頭言 「 短詩型文芸の宿命」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・例会
・例会風景
・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

 


柳歩
整理  柳歩

吉崎柳歩
河合恵美子
 

柳歩
清水信
橋倉久美子
たかこ



 

バックナンバー
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巻頭言


 短詩型文芸の宿命

 先の三川連の大会に「首」という題があった。選者は大嶋都嗣子さんである。相手にとって不足はない。何句か考えた挙げ句、
 
 どこまでが首か蛇にもわからない

という句ができた。面白い句だと自讃したのだが、「待てよ、似たような句をどこかで見たような気がする。久美子さんの句になかったか?」良い句は一読して記憶するものである。そう思ったら出句できない。入選したら却って後味が悪い。結局、他の句を出した。 

 後日、久美子さんにメールで聞いてみた。彼女から「調べたら(切れたところからがトカゲの尻尾です)という自分の句と、征一路氏の句に(ノーヒント蛇の尻尾はどこからか)という句があった」と返信があった。この二句には私も記憶があった。
 どこまでが首かわからないように、どこまでが同想句と言われるのかも難しい。剽窃でないのは確かだが、この二句を足して二で割った句、と言えないこともない。尻尾を首にしただけ? 
 
 前回の「川柳展望」のネット句会の題は「曜日」であった。25名から141句の出句があったが、上五が「日曜日」の句が十一句もあったようだ。また、「毎日(が)日曜」から始まる句が三句あり、その内の一句は、
 
 毎日が日曜きょうも日曜日

であった。この句は征一路氏の、県下ではよく知られた(毎日が日曜きょうは日曜日)の類想句である。
 川柳は俳句と同じ、たった十七音字の文芸である。盗句や剽窃は川柳人としての資格を失する自殺行為だが、題詠に於いては、暗合句や類想句を創ってしまうのは避けられない、短詩型文芸のいわば宿命である。
 
 俳人、岡本眸氏はある書物にこう書かれている。「類句は速やかに取り消さなければならない。が、作ったときの姿勢が正しければ、必ず作者にプラスするものが残る。逆にその姿勢が汚れていれば、発見されなくても、作者自身が暗闇を永遠に歩くことになる。類句問題の審判は自分の中にある」
                                                                                                                                                                                                                                                                                        柳歩

 

すずか路より
褒め方で解ってないのだと解る 堤 伴久
鯉のぼりだらりと職がみつからぬ 萩原典呼
ゴミ箱に入れた時からゴミになる 橋倉久美子
お〜いお茶などと言ったら叱られる 山本鈴花
香雪の描く人形は香雪似 鍋島香雪
怪し気なのもいるその道の専門家 山本 宏
履き馴れた靴で躓き老いを知る 沢越建志
肩書きへ不況の風がより辛い 高柳閑雲
還暦を越すと日めくり速くなる 鈴木章照
留守中に寡婦体験をちょっとする 加藤峰子
誘われて行けば私がスポンサー 石川きよ子
病院の順番待ちに読む柳誌 鶴田美恵子
おばさんの二乗は生きた桜の木 寺前みつる
回り道こんなところに薬師堂 山本喜禄
ある予感風が裏切る日もあって 水谷一舟
あこがれの人も老いたりクラス会 西垣こゆき
老父にはないしょ葬祭友の会 松岡ふみお
後継者なし花屋に花が咲き乱れ 坂倉広美
計算は早いが応用は苦手 北田のりこ
台所預かる主婦も歯が命 高橋まゆみ
少しだけ角度を変えて富士を見る 青砥英規
約束をかわした春が去っていく 秋野信子
はずれるとつらい期待をしすぎては 落合文彦
風向きが読めなくなった風見鶏 長谷川健一
紺碧の海へ思わず深呼吸 鈴木裕子
ダイエット成功服を買い替える 浅井美津子
ポイントを稼ぐ生徒が欲しい塾 加藤吉一
新年の決意だんだん崩れ出す 竹内由起子
横になる度に余生を思う歳 水野 二
花見にはいつもおにぎりデカくなる 安田聡子
暗証番号忘れカードも役立たず 瓜生晴男
散るさくら往生際が悪くなる 吉崎柳歩
無造作に置いてもセンスあるオブジェ 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  183号から                                      河合恵美子

それはそれはとお世辞笑いで済まされる  堤 伴久
 
浮き世は大かた、お世辞笑いで和を保っているようです。お互いに解っているのですが、いつまでもいい仲間でいたいですから。

期待さえしなけりゃ不満なく平和    加藤 峰子
 
本当ですね。期待しないしないと言いながら大きな期待をするのも人間の本能でしょう。日々不満と向き合って、喜怒哀楽に生きているではありませんか。

高望みだったと落ちてからわかる    橋倉久美子
 
子の進学、商いに、誰でも高望みして当然無理だとしても、挑戦しないと分かりません。ただ落ちた時、どう立ち直れるかが問題で、それも経験しないと答は出ない。ああむつかし。

どの風にたくす好きだと言うことば   水谷 一舟
 
句主のときめき、風にたくさず直接笑顔を贈ってみてはどうですか。きっと花いっぱいに囲まれておられるのですね。

平日のあなたがずっと好きだから    高橋まゆみ
 
憎らしいほど、さらりと言ってのける素晴らしさ。ごちそうさま。美しいですね。幸せを祈ります。

一億の国民すべて評論家        山本 喜禄
 
評論家の議論を聴く時、ああ言えばこう言うばかりですっきりしませんね。うちのじいちゃんの論が一番正しいと思ったりします。

なんにも知らず今年も咲いてくれた梅  鈴木 裕子
 梅に桜に満開の季節には、自分も梅や桜になりたいなあ、潔く散れたらなあと思うことがあります。もう五月、菖蒲が呼んでいます。 

死んだ時 口を開けないようにする   吉崎 柳歩
 
自分の死に顔を想像することがありますいろんな場面を想定して、その時はきれいに整えてあげるよ、と子供達は言ってくれていますが。

生涯を出番の来ないスペアキー     青砥たかこ
 
句主と思いが違っていたらごめんなさい。私が世を去った後、必要なスペアキーを一つ遺言の中に記しておきました。

                                      (津市在住・三重番傘同人)

4月25日(土)例会より
宿題「 散る 」 青砥たかこ 選と評
  納得がいった枝から散っていく 吉崎柳歩
  散らかってますがどうぞと招かれる 鈴木裕子
 止 桜の葉が散るのはだれも見ていない 橋倉久美子
 軸 散りかけていても笑顔を忘れない 青砥たかこ
宿題「 半端 」 鈴木裕子 選
  多趣多芸奥義極めたものがない 浅井美津子
  中途半端な返事に愛がもつれ出す 水谷一舟
 止 半端ではない老木の生きる欲 坂倉広美
割り切れぬ半端を負担するわたし 鈴木裕子
宿題「 半端 」 吉崎柳歩 選
  ライバルに半端な気持ちでは勝てぬ 瓜生晴男
  中途半端な酔いでなかなか眠れない 橋倉久美子
 止 半端ではない老木の生きる欲 坂倉広美
半端ではない大嘘に騙される 吉崎柳歩
席題互選「 冷える・冷やす 」 高点句
 9点 無口でも冷えた仲ではありません 竹内由起子
 8点 冷やしておかないと死体が目をさます 橋倉久美子
  冷えてゆく二人に刻は戻らない 青砥たかこ
  打ち水で地球を少し喜ばす 橋倉久美子
 6点 はてここへ何を冷やしに来たのやら 加藤恵子
 5点 口げんか相合傘も冷えてくる 吉崎柳歩
特別室

鶴彬三章(3)                                     

 29歳で死んだ鶴彬の作品には、余裕がないが、時代の違いだけではない。

・胎内の動きを知るころ骨がつき

 反骨精神は生来のものかも知れない。カラオケもパチンコもゴルフも無かった時代だが、あったとしても鶴彬は、それを楽しむことは不可能であったろう。小学校だけで働いた職工だから、ではない。
 早春の外電によれば、ロンドンのアサヒ新聞と言われる英紙インデペンデント新聞が、読者の英国人を対象にした調査を公表している。

「最も不快に感じる発明品は?」という問いに対しての答。

(1) カラオケ
(2) TVのスポーツ番組
(3) ゲーム機
(5) ケータイ電話

 パチンコや回転寿司やお笑い番組がロンドンにあったら、当然その中に入るだろう。
 アンケートは英国政府が主導したもので、さすがというか、大英帝国のプライドにかけて、こういう結果が出たのだろう。
 文化勲章よりはノーベル賞の方が良いに決っている(民間の賞だから)。ノーベル賞よりはイグ・ノーベル賞が良いに決っている(ユーモアに満ちているから)。

・馬糞から婦人用香水を作る法
・犬や猫の鳴き声の意味を知る機械
・頭の禿げない薬の発明

 こういうものが、イグ・ノーベル賞にはあったと思う。井上大佑が一九七一年に発明したカラオケや、名古屋で売り出したパチンコ機も、多分その中に入っていたと思う。こういうユーモア性から見れば、アングロサクソンの自尊心は、半分ヤキモチにも見える。
 文学サークルや芸術的なサークルの意見を統計しても、日本の場合、カラオケやTVのスポーツ番組やお笑い番組が「不愉快なもの」として上位にくるとは考えにくい。
 しかし、今百年に一度という不況時代に遭遇している日本に、

・肺を病む女工小作争議の村へ
・熟し落つ文明の実の種と土
・ロボットをふやし全部を馘首する

 こういう句が、身を寄せられないであろうか。首を切られたハケン族の生活を思わないであろうか。田辺聖子や沢地久枝は、いち早く鶴彬に注目した人であった。

                                                                                                                      (文芸評論家)清水信

誌上互選より 高点句
前号開票『 拍 手 』
 1 5 閉会の言葉を待っていた拍手 堤 伴久
 1 0 どんじりのタスキに惜しみない拍手 高木みち子
  9 異議なしの拍手を急かす決算書 沢越建志
   8 いちだんと大きな拍手する身内 加藤峰子
  7 点  受賞者が多く拍手も疲れぎみ 橋倉久美子