目次8月号
巻頭言 「 入門書」
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・例会
・例会風景
・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・お便り拝受
・各地の大会案内
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

吉崎柳歩
水野奈江子
 

柳歩
清水信
橋倉久美子
柳歩


 

バックナンバー
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号)
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巻頭言


 入門書

 今頃、入門書を読んでなにごとぞと、あきれる方もおられるかも知れない。現につい最近、美容院に持ち込んだら、美容師さんにも問われた。だが、時に私は何冊もある入門書のどれかをベットに運び、寝付くまで読むことがある。
 昨夜は東京美術社発行の「田口麦彦著・川柳入門はじめのはじめ」を読んだ。入門書なのに序文があって、作家の田辺聖子さんが書かれておられることに驚いた。

 田辺聖子さんはその序文で、いまの川柳は、あまりにたやすく作られるために「新聞の見出し」風や「交通標語」風や、「知的ゲーム」風でごちゃ混ぜになっていて社会的評価でかなり誤解されている。「こころざし」が必要だけど、「こころざしがあるべき」など言われたら初心者には、川柳の門口で足がすくむだろうと 書かれている。たしかに

「それくらいの川柳なら、私でもできます」

そう意気込んで入会してこられた方が多い。入ってみてあまりの制約の多さに、約束違反とまで言われかねないくらいだが。
 しかし、こんなに間口が広くても川柳人口は若年層で増えていかない。

 鈴鹿の大会で、秀句に輝いた岐阜の南さと奈さんが三十一歳とお聞きして、ちょっとだけ未来に一筋の光を見た気がする。なぜかと言うと、彼女はけなげにも、同世代に川柳の面白みを広めたいとも記して下さったから。

川柳の本当の面白みを知るためには、机上だけでは無理だと思う。句会に出て、他所の大会にもたまには出て肌で感じないと伸びない。やってもやってもどんどん難しくなるから、それに対応していく力をつけていかなくてはならない。人の句を読み、柳誌を読み、多作をして自選をする。そして原点に戻って入門書も読んでみたい。

その上で麦彦さんも言われる

「今を写し取る、今しかかけない句を書く、詠む」ことだと思う。

                                                                       たかこ

 

すずか路より
仏罰か蜂に刺された墓参り 橋倉久美子
冗談にしたいカルテにある事実 鍋島香雪
相撲中継いつもの人がいる桟敷 北田のりこ
暗証番号家の通帳皆同じ 石川きよ子
いらないと言いつつ期待するみやげ 山本鈴花
手が届きそうで届かぬ夢を追う 山本 宏
ゆっくりと出来ぬ乗換駅がある 沢越建志
人間の口はひとつと限らない くのめぐみ
辛すぎた過去を葬る蝉時雨 高柳閑雲
一善はしたとうなずき床につく 鈴木章照
葬式が続きいちことより戻る 加藤峰子
母笑う美容院には月一度 秋野信子
括弧して読み手のお情けにすがる 堤 伴久
御無沙汰の果てにコトンとくる訃報 寺前みつる
ネクタイも黒と白とで用が足り 山本喜禄
雨の午後逢わねばならぬひとがいる 水谷一舟
前向きになったとたんにつまずいて 加藤けいこ
舞台裏ドタバタ劇も思い出に 西垣こゆき
食べ頃を猿が知らせに来て困る 松岡ふみお
その人をふと思い出す梅雨の下 坂倉広美
誕生日気力が齢を上回る 高橋まゆみ
快適な眠りタイマー切れるまで 落合文彦
墓まいりからスタートしたいスケジュール 鈴木裕子
一応は欠点のないレントゲン 浅井美津子
虫掬う網も置かれた露天風呂 加藤吉一
医者代となる小遣いも良しとする 長谷川健一
支え棒さがして蔓は風に舞う 竹内由起子
太り過ぎキュウリ料理を持て余す 水野 二
汗のまま化粧するからすぐはげる 安田聡子
リハビリの看護師今日も温かい 瓜生晴男
ほぼ制覇したこの辺の日帰り湯 吉崎柳歩
満点を目指しあちこち落とし穴 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

    
  186号から                                      水野奈江子

 小学校の卒業式の日に低学年は休みなので、毎年鈴鹿サーキットに行っています。遊園地の広い駐車場に着くと、孫達の目は最高に輝き始めます。
 私もそんな気持になって「すずか路」を読ませていただきました。

彼らしいケータイに子が部屋を出る   山本 鈴花
 
ケータイが普及していなかった頃は、デートの約束に苦労していた。これからの恋はケータイを軸にドラマは進んでいく。その一場面がこの句から見えてくる。

肩書きの一つあなたの妻と書く     鍋島 香雪
 勉強会の互選に「肩」という題があったけど、こんな素敵な肩書きは一つもなくて反省させられた。

ベテランのあなたに従いてけもの道  かとうけいこ
 
後の句で登山と分かったが、下界でも道に迷う事はありそう。一緒にけもの道へ行く楽しさもあるけど。

給付金みんなマスクに使います     北田のりこ
 
給付金と新型インフルエンザの二つをうまく時事吟にして、楽しい句になった。乾燥する秋、冬も深刻な句にならないよう願っている。 

作物の食べ頃が来て猿も来る      松岡ふみお
 
私の住む尾張旭市はハクビシンや洗い熊の被害に困っている。この句の食べ頃に来る猿に、猿の真剣さも見えてきた。  

きっちりと明朝体でお詫びする     加藤 吉一
 
行書や楷書でお知らせ文を書いてきたけれど、私は最近、明朝体での文章が多くなった。いろいろあった末の明朝体は大きな存在になる。

予報士に今日の洗濯指示される     竹内由起子
 
ノースリーブの予報士が雪の予報をしていたという句があって、うまいなあと思った。この句もテレビからたくさんの、よい川柳ができるという見本になった。

表から見るとまずまず障子貼り     吉崎 柳歩
 障子貼りに疲れて、カーテンにしてしまった私には懐かしい光景。実感句は強いという見本の句と思う。

                                        (尾張旭市在住)

7月25日(日)例会より
宿題「 キャベツ 」 青砥たかこ 選と評
  足に合う大きさ蹴りたくなるキャベツ 坂倉広美
  トンカツ屋採用テストキャベツ切り 北田のりこ
 秀 ナスキュウリほどは頂けないキャベツ 吉崎柳歩
丸ごとのキャベツへ主婦の腕がなる 青砥たかこ
宿題「 溢れる 」 加藤吉一 選
  今日もまた涙溢れる見舞い状 鈴木裕子
  溢れ出たお肉は寄せて引き上げて 高橋まゆみ
 秀 あふれないように時々傾ける 橋倉久美子
溢れそう未来の人へ月探査 加藤吉一
宿題「 溢れる 」 水谷一舟 選
  溢れ出たお湯はあなたの脂肪分 高橋まゆみ
  エレベーターブザーにわたし降ろされる 浅井美津子
 秀 あふれてもいいよぞうきん持っている 橋倉久美子
友情の溢れいきなりバカヤロー 水谷一舟
席題「 夢 」 清記互選 高点句
 9点 まだ熱い夢を見ている薬指 坂倉広美
 8点 夢のある話はしない通夜の席 吉崎柳歩
 6点 くちづけの一歩手前で目が覚める 吉崎柳歩
  おばあさんかて宇宙旅行の夢は見る 鈴木裕子
 5点 太平洋の夢を金魚は見たりせぬ 橋倉久美子
  妻よりも先に逝くのがボクの夢 北田のりこ
  よい夢を見たのか猫が欠伸する 坂倉広美
特別室

鶴彬続三章(3)                                      清水信 

 鶴彬の言葉。

「川柳は一つの武器である。僕ははじめ文学から出発し、政治に入りその政治にやぶれ、また文学へ帰ってきたのだ。文学といえども立派な文化的実践であることを知っているが故に、時代にやぶれ、会うことすらむずかしい体に鞭うって闘っているのだ」

 山宣の暗殺があり、プロレタリア川柳の弾圧があり、一九三〇年一月、鶴彬は第九師団に入隊する。
 金沢第七連隊赤化事件というのが起って、鶴は軍法会議にかけられ、有罪。一年七ヶ月を大阪衛戌監獄に入獄、水牢などで虐待を受ける。
 除隊後は、その後二年定職も住む家もなく、友人宅を転々。

 井上剣花坊は65歳で他界、井上信子を励ます会を開き、70名が参加、遺業を継いで柳誌『蒼空』を創刊。映画では年上の信子と独身の鶴彬との間に恋情があったと描く。

「鶴彬に生活を与えるための会」で募金活動が始まる。
 しかし、2・26事件、日中戦争開始と時代は暗く進む。
「大衆の生活感情の真実をうたいあげる、これが川柳のリアリズムだ」
 と鶴は信念を立て直す。そして『川柳人』に新作を発表するものの、召集されて再び軍隊へ。

  ・出征の門標があってがらんどうの小店
・最後の一羽がたおれて平和にかえる決闘場

  帰還したものの、検挙に会う。昭和13年。面会にくる信子。
信子「こんな目に会わせて」
鶴「信子奥さん、出たら奥さんの所へ帰りますよ」
信子「待ってますよ」
 しかし、その9月14日他界。治安維持法下の拷問、虐待で死んだ人一九四人、獄死は1503人という。

 戦後20年して、金沢卯辰山公園に初めて句碑が建った。曰く。

 ・万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た

 井上信子は萩藩士の出。20歳での結婚に破れ、30歳で剣花坊と再婚、5人の子を育てた。谷口絹枝に『蒼空の人・井上信子』という評伝がある。88歳で他界。その句一つを紹介する。

・国境を知らぬ草の実こぼれ合い

                                                                 (文芸評論家)

誌上互選より 高点句
前号開票『 健康 』
 1 5 健康な足音で去る見舞客 加藤吉一
 1 1 何もない頃は健康だけあった 福井悦子
   8 健康な蜘蛛きれいな網を張る 橋倉久美子
    7 健康に見えぬ夢二のモデル達 鍋島香雪
    6 ジーパンの穴から覗く健康美 山本 宏
    健康にいいというのが売る手口 落合文彦
    美しい歯から健康こぼれ出す 青砥たかこ