目次10月号
巻頭言 「 異常気象」
すずか路
・小休止
・柳論自論
・没句転生
リレー鑑賞
・例会
・例会風景
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・大会案内
・二百号達成記念句集
・編集後記

 


柳歩
柳歩整理

伴久
柳歩
小寺竜之介
 

清水信
橋倉久美子
たかこ



 

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巻頭言


 「 異常気象」

 今年は三十年に一度の異常気象で、百十三年振りの猛暑の夏であったらしい。つまり今生きている日本人の殆どすべて(戸籍はあるがミイラになっている人も含む)が、これまで経験したことのない、暑い夏を過ごしたわけだ。
 確かに何人かのお年寄りが熱中症で亡くなったが、世界や日本に生息する人類が一挙に半減した、との情報はない。昼夜を問わずエアコンを付けっぱなしにして、電気代はかなり上がったが、パニックになることもなかった。

 本当の異常気象とは、当時地球を支配していた恐竜が遭遇した、巨大隕石との衝突が原因で起きた気象や、映画「デイアフタートゥモロウ」のように地球温暖化の結果訪れた氷河期のような状況を言うのだろう。今年の異常気象は、そうした本当の異常気象の予兆なのかも知れない。本当の異常気象になったら人類は滅亡してしまうだろう。いずれにしても地球が死の星になる時はきっと来る。人類の遺したものは全て灰燼に帰してしまうだろう。歴史もコンピューターも、ピラミッドもスカイツリーも、句集も句碑も。

 癌を患っていた友人が生前、「俺が死んだ後に世界が存在している筈がない」と言っていた。彼は死んだが、私も世界も依然として存在している。しかし、彼の言っていたことは正しい。 私たちは誰でも、生まれる前、正しくは物心の付くまでは世界は存在していなかった。宇宙誕生からそれまでは瞬時であった。「無」であった。客観的に存在していたとしても、一個の生命にとって、それに何の意味があろう。
 私たちが死んだら世界は消滅したのと同じだ。客観的には子孫や知人がしばらく生存していても、地球が死の星になるのは、宇宙時間で計ると瞬時だ。死者にとっては、すなわち「無」だ。

 私たちは残された生命の束の間を川柳に費やしている。ともかく、楽しくなければ意味がないことは確かだ。

                                                                  柳歩

 

すずか路より
投げ出した足をくすぐる青畳 沢越建志
山本さんがこんなにもいる電話帳 山本 宏
勝負服決まって妻は赤を着る 高柳閑雲
秋風が立つと猛暑も懐かしい 加藤峰子
洗っても取れないシミも増えてきた 青砥英規
予定帳老いにも明日があるらしい 堤 伴久
我が家にも埋蔵金はきっとある 山本喜禄
留守電に声ありボクは生きてます 水谷一舟
御在所のとんぼが里に降りてくる 廣瀬まさこ
二センチの段差に足をすくわれる 小川のんの
ああやっとできる週末夕涼み 松本諭二
献立が決まり体が動き出す 西垣こゆき
Aランチにしたが旨そうBランチ 松岡ふみお
診察室を出る 忘れ物したように 坂倉広美
草食系だけど執念なら深い 橋倉久美子
渋滞の列に霊柩車も混じる 北田のりこ
おいしいのうわさがうまさ加速する 落合文彦
道聞かれ信号の数指を折り 浅井美津子
ヨチヨチの児に癒される待合所 鈴木裕子
猛暑日が続き自然が恐くなる 竹内由起子
持て余すまでは家族でいたペット 加藤吉一
高級魚サンマは妻と半分こ 長谷川健一
多機能の電話歳には荷が重い 水野 二
左利きの包丁さばき見てられず 竹口みか子
カラオケで助太刀されて声沈む 野村しおひ
安穏に暮らせるはずが落とし穴 瓜生晴男
好物も食べ過ぎてはと引っ込める 安田聡子
終章のページに愚痴は書かぬよう 鍋島香雪
狂い無く時報を告げる腹時計 小出順子
母さんが必死で生きた形見分け 加藤ミチエ
茶柱を気にしてるからまだ若い 鈴木章照
考えすぎにならないように考える 吉崎柳歩
罫線があるのにいつも歪む文字 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」


 200号から                                      小寺竜之介

致死量の手前の薬飲まされる   高柳 閑雲
 これとこれは朝の分、これは夜だけ、これは毎食後と細かい指示に間違えぬよう飲むだけでも大変ですが、今朝は薬を飲んだかしらと飲んだことまで忘れてしまう。「致死量の手前」は怖いことば。飲み過ぎても飲み足らなくても薬は毒になる。

介護なんとか税に皺首絞められる 堤  伴久
 税金と言い保健といい有無を言わせず天引きされてその行方は? 名目はなんであれ引かれることには変わりがない。あぁそれは私の飲み代だったのに…。

ジャンケンに負け病院のモルモット 水谷 一舟
 病院の廊下をモルモットのように扱われて、あっちへこっちへといかされる。「カミサマ」とでもジャンケンをしたのでしょうか、運命とあきらめず再度の挑戦を試みる気概を感じさせる一句。

シンバルは失敗できぬ音を出す  西垣こゆき
 
ここで一発ジャーン。「決まったぁー」一時間半待った演奏の果てのシンバル奏者は余程心臓が強くなければ務まらないようだ。

雑草と追いかけっこで負けている 広瀬まさこ
 
抜いても抜いてもすぐ存在を主張する雑草。一日ずっと頑張ってきれいになったので、今日はちょっとオシャレを楽しんで息抜きのお出かけ。友達と美術館でも回って、お喋りをしてお茶をして…。さて雑草の方は片時も休まず、亀のごとく一歩ずつ伸びているのである。人間は天の摂理にはかなわない。

速達で出して誠意を見せておく  青砥 英規
 
誠意と言う眼に見えぬやっかいなものを伝えるには形が必要なんです。「誠意を見せてくれ」などと言外に現金を請求されることもあったりして難しい問題を含んでいます。「頑張ったんですよ」と速達で届けられた原稿。おろそかにはできません。

樹に水を遣って雑草よろこばす  吉崎 柳歩
 
この猛暑に枯らさないよう朝夕水やりをしていても元気なのは雑草ばかり。思惑とは違うところで喜んでいる他人がいるなんて、許せない。とは言っても人の知恵とは所詮そんなものなのかも。

抱きしめてあげたい時とほしい人 橋倉久美子
 
失敗し落ち込んでいても、その一生懸命さをただ抱きしめてあげたい人がいます。そんな私にも何も言わず、何も聞かないで抱きしめてほしい時がある。母性ともおんなとも思う心の揺れを詠んで佳作。

                                       (堺市在住・堺番傘同人)

9月25日(土)例会より
宿題「 蕎麦 」 吉崎柳歩 選と評
  音立ててますますうまい蕎麦にする 橋倉久美子
  逃げたおんながまだ見つからぬ夜鳴きそば 坂倉広美
 秀 天ぷらそば母はぜいたくしたつもり 水谷一舟
講釈を聴かされながらすする蕎麦 吉崎柳歩
宿題「 いじわる 」 瓜生晴男 選
  イケメンの部下に意地悪したくなる 吉崎柳歩
  二千円札混ぜ店員を悩ませる 橋倉久美子
 秀 痩せたけど以前のほうが好きだった 石谷ゆめこ
いじわるな病気がまたも芽生えだす 瓜生晴男
宿題「 いじわる 」 橋倉久美子 選
  イケメンの部下に意地悪したくなる 吉崎柳歩
  考えているのに答え言ってくる 青砥たかこ
 秀 仏像にいじわるそうな顔はない 杉浦みや子
意地悪をして枝ぶりを整える 橋倉久美子
互選 席題「 歩く 」 高得点句
 8点 万歩計つけると宇宙まで歩く 吉崎柳歩
 7点  まだ歩けますと飲み干すコップ酒 橋倉久美子
 6点 足跡がつかない靴を履いている 長谷川健一
 5点 酒蔵にひたすら向かうハイキング 野村しおひ
  ついてくる車が頼り歩く会 坂倉広美
  幸せを探して歩く裏通り 橋倉久美子
特別室

批評の明暗(1)正論
                                            清水信 

  ボクは何でも読む。
『正論』9を読んだ。ウヨクの雑誌である。通巻462号(産経新聞社)に当り、フアンも多いのだろう。
〈終戦65年特集〉として、倉本聰が「日本人よ、英霊に対して恥ずかしくないか」を語っているので、読んだ。

 棟田博が昭和30年に発表した「サイパンから来た列車」をもとに、倉本が劇化し、演出も手掛ける舞台「帰国」が8月15日前後に東京赤坂のACTシアターで上演される。その後、この富良野グループによる芝居は、全国巡業を続けるが、鈴鹿ではイチ早く、それを受け8月21日に、市民会館で公演する。余程の支援者がいるのだろう。
 昭和10年生まれの倉本は、東大美学科卒後、ニッポン放送勤務を経て、シナリオ作家になったが、昭和52年に北海道富良野へ移住、私費を投じて富良野塾を開設し、俳優と脚本書きの養成に尽力した。
 いくつかの代表作をテレビや演劇で公開したが、今年(平成22年)閉塾を決定した。その教え子たちが、日本の演劇界を牛耳るのは、今後のことだ。

 選挙の時に、候補者が話題にしてはいけないことは、靖国の問題と、自殺三万三千人の問題と、終末医療の問題の三つだという。とりあげると、得票に不利になるというのだ。
 そういう「やましき沈黙」を皆が背負いながら、日本人は生きているのだと指摘している。
 アメリカ占領軍が、日本の青年をフヌケにするには3S(スクリーン、セックス、スポーツ)だけで良いという作戦にふみきったことや、テレビだけで日本人はアホに出来ると、テレビ普及にCIAが熱心になったことは、結果論として正しかったように思う。

 喜劇の側面も充分あるのに、観客のほとんどが泣いて、幕が降りても劇場がシーンとしていることに、倉本は違和感を唱えている。
 その他「トラック島に残された六十五年目の大和魂」という秘話の紹介もあり、石原慎太郎と立川談志の対談もある。

 尚、巻頭のグラフは船村徹である。この演歌の作曲家は昭和7年栃木生まれ。東京音大卒、美空ひばり、北島三郎、春日八郎等と組んでの大ヒット。今は文化功労者表彰の第一人者だが、毎年九段会館で「靖国チャリティコンサート」を開いている、鳥羽一郎、森さかえ、荒木おさむ等が参加して「日本の心を歌っている」由。

                                                               (文芸評論家)

誌上互選より 高点句
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