目次5月号
巻頭言 「 事前投句
すずか路
・小休止
・柳論自論
リレー鑑賞
・ひとくぎり

・没句転生
特別室
・アラレの小部屋
・前号印象吟散歩
誌上互選
・インターネット句会
・ポストイン     
・お便り拝受
・各地の大会案内他
・編集後記

 


たかこ
整理  柳歩

柳歩・伴久
小河柳女
たかこ

柳歩
清水信
橋倉久美子
柳歩









 

巻頭言

事前投句

 第五回の大会が迫ってきている。昨年は「マチエール」発刊記念と、会場もホテルに替えたこともあってなにかと気ぜわしい日々を送っていたが、今年は慣れも手伝って、ついのんびりしてしまっている。なにか抜けてないか、し忘れてないか、昨年の資料を取り出して見直してみた。

楯の発注、済み。後援会の承諾依頼、済み。ホテルでの最終打ち合わせも済み。各地の大会も時間の許す限り出かけた、いやまだまだこれから予定はびっしり
 第四回まで事前投句の選をしていたから、当日は披講という大きな役割もあった、今年はそれも無いんだ…などのんきなことを考えていたら、大切な仕事を思い出した。今回は事前投句が私の元に送られて来る。律儀な方からは早々と届いている。これを締切と同時に選者である柳歩さんにワープロ清書して廻さなくてはならないのだ。

 すでにもらっている数名のはがきを一字一句間違わないように打ってみた。神経に亀裂が入りそうだ。編集の校正はいつも柳歩さんだけど今回はそれも適わない。
 だけどあと約三週間、私は自宅の郵便ポストに皆さんからのメッセージを待つ楽しみがある。
題は「捨てる」お忘れなく。はがきが無い方は、HPから普通のはがきに印刷出来ます。ただし、大会に来ていただくお約束の投句です、出しっぱなしはお許しを。

 大会は気がつけばもう五回。皆さんに支えられ一つの節目を迎えます。
                                                                                                                                                    たかこ

すずか路より
無駄話ですが良ければしませんか 寺前みつる
年金に春闘あれば旗を振る 長谷川健一
すずか路の石に時々蹴躓く 岩田眞知子
無いものをねだっていたら進まない 青砥英規
片方が鳴らなくなった対の鈴 鍋島香雪
贅沢もわたしを磨く授業料 山本鈴花
お言葉をなどと言うから止まらない 上田徳三
追伸で知った口では言えぬ影 沢越建志
七十の毬に空気を足して生き 竹内そのみ
卓球で消える悩みもストレスも 鶴田美恵子
喧嘩する同じオモチャじゃなきゃ困る 鈴木章照
別々の夢を見ている夢枕 木村彦二
しあわせは風に任せて鯉幟       堤 伴久
うれしいな夕べも夢で亡母に逢う 水谷一舟
はなびらに一升瓶をのぞかれる 山本喜禄
句読点みごとに打って竹強し 坂倉広美
着慣れない服着せられている四月 橋倉久美子
たこ焼きがほどよく冷める待ち時間 北田のりこ
あこがれはあこがれのまま春は逝く 多村 遼
切り替えの早さで勝負しています 高橋まゆみ
描き上げてほしいと花に急かされる 鈴木裕子
誰もみな良い人らしい散歩道 小嶋征次
水だけで咲いた桜は色がない 竹内由起子
咲けば散る桜吹雪が手本見せ 小林いさを
素人の弱さ強さで選挙戦 加藤吉一
四苦八苦しながら挑む振込機 水野 二
肉食を控えてからは調子良い 瓜生晴男
地震以後入浴時間早くなる     安田聡子
もらい水並んで解るありがたさ    上田良夫
通り雨みたいに過ぎた誕生日 吉崎柳歩
戦力にするには駒が弱すぎる 青砥たかこ
 

整理・柳歩

リレー鑑賞「すずか路を読む」

  159号から                                        小河柳女

 
・楽譜どおり弾いても拍手起こらない    坂倉 広美
 楽譜を読みとり自分はどう表現したいかを明確にし、表現方法を選びとることが大切なのでしょう。このことは文学全般にあてはまるものと考えています。川柳ももちろんこの範囲に入っています。

いま少し居たいけれども邪魔かしら    内山サカ枝
「いいえ、邪魔なんてとんでもございません。あなたが居てくださるだけで座も和み、とても楽しゅうございます。お好きなだけ居てください」想像を少し広げて…「この世の中の生きとし生けるものすべて邪魔なものは存在しません。存在することに意義があるのです。どうぞ思う存分生きていて下さいませ」

 ・九十九折 峠の春を疑わぬ        堤 伴久
 曲がりくねった道を、危うく間違いそうになった道をよくここまで来たものだ。峠はもうすぐ。花、花、花に満ちているにちがいない。疑わずに、前向きに上がって叙情豊かなすばらしい作品です。

・ディサービスの日には肩からほっとする  寺前みつる
「肩からほっとする」に作者の心情がうかがえます。私事になりますが、昭和五十一年から平成八年まで十八年間義母を介護いたしました。ある晩看護師さんがふと漏らした言葉は忘れられません。「職業だから看護しているけれども、身内だったらようしないわ」介護とはそれほど大変なのです。

 ・怒らせた方にも傷はできている      青砥たかこ
 怒った方にも、怒らせた方にも両方に傷はできるものです。人情の機微をとらえた作品。

                                            (四日市川柳会・鈴鹿市在住)
 

4月28日(土)例会より
宿題「 下がる 」 青砥たかこ選
  檻の中の虎が吼えるとつい下がる 吉崎柳歩
  雨上がりきぬさやどっとぶら下がる 竹内由起子
 止 みの虫も糸の長さを考える 橋倉久美子
 軸 あまりにも目盛り下がると怖くなる 青砥たかこ
宿題「その他」 小嶋征次選
  あの人のタイプに入らない私 吉崎柳歩
  塩こしょうほかに秘伝をひとつまみ 橋倉久美子
 止 おふくろの味の決め手になるその他 阪本高士
気楽ですその他の群れの中にいる 小嶋征次
宿題「その他」 阪本高士選
  侮ると刃を向けてくるその他 山本喜禄
  その他から集める光りそうな石 多村 遼
 止 良いところだけ見ることにするその他 竹内そのみ
 軸 おふくろの味の決め手になるその他 阪本高士
席題「 透ける 」 清記互選 高点句
 9 人格の透ける言葉を投げてくる 吉崎柳歩
 6 すりガラスに男が水をかけたがる 橋倉久美子
   寄ってくる笑顔の裏が透けて見え 坂倉広美
   魂胆を母は見透かすプレゼント 小嶋征次
 5 コンソメの自慢底の絵まで見せる 橋倉久美子
 
特別室

新子補話 

  時実新子のファンは、女性より男の方が、ずっと多いかも知れない。僕も一度パーティで会ったことがある。既に初老であったが、眼鏡の奥で軽薄に動く眼球が、未だ衰えぬ色気を漂わせていた。

 俳  人・飯田龍太(86
 川柳作家・時実新子(
78
 国文学者・岡本勝 (
68

 と相次いで亡くなった春三月は少し淋しい月であった。私の身辺でも赤嶺秀雄と妹の佐野智子が亡くなって、葬儀に参列した。
 時実本はかなり持っている筈だが、手近かにあるのは『言葉をください』と『花の結び目』の二冊である。その中で面白いのは、富士正晴との一件である。
 既成と訣別して独立し、個人誌である『川柳展望』を創刊した時だ。河川敷に建っている小屋が編集室であった。雑誌の目玉として著名人へのインタビューを計画し、一回目は田辺聖子、二回目は亀井一成(王子動物園園長)、そして三人目に、編集所と同じ茨木に住む竹林の賢人といわれる富士正晴を予定した。その電話のやりとりが、面白い。

「冨士さんですか?」
「そう、富士です」
「私は茨木に住んでいる者ですが」
「それがどうした?」
「先生にお会いしたいと思うのです」
「そっちはそうでも、こっちはこっちで忙しい。何が何やら分らんな」
「ごもっともです。日はまたご都合のよいときで結構です」
「あんた、どこの生まれ?」
「岡山です」
「何歳?」
「五十二歳です」
「うーん、岡山生まれの五十二歳か。勝てんな、これは」

 こういうやりとりがあって〈岡山生まれの中年女ときたら、到底かなわぬ〉という風で「すぐいらっしゃい。写真機やテレコなんて持ってきたら、あかんよ。一人ですぐお出で」ということになって、インタビューに成功した。といっても、庭でがま蛙が小さい蛙を呑み込むのを見せて、小さい蛙に「アホ、目つぶれ」と呑み込まれる時に応援するのだった。
 トイレを借りると、電球の光が股倉を指すように出来ていて、びっくりしたという。その時の句。

・悪い男と心ひとつに薔薇を見た

 富士正晴は昭和62年7月15日未明、ひとりで死んでいた。73歳だった。

                                                                                                                     (文芸評論家)清水信
誌上互選より 高点句
前号開票『 峠 』
 11 トンネルができて寂しくなる峠 吉崎柳歩
  9 見晴らしというご馳走がある峠 吉崎柳歩
 8点 まだ女峠はもっと先におく 青砥たかこ 
 7点   引き返しできぬ峠を越えていく 寺前みつる
    靴ずれにここが峠と言い聞かす 橋倉久美子
 6点   長生きをするから峠また増える 竹内由起子